【Vol.06】融資審査を通過して開業資金を調達する

このページで勉強できること…
  1. 美容室開業なら融資は日本政策金融公庫がおすすめ
  2. 日本政策金融公庫から融資を受けるメリット
  3. 融資を受けるまでの流れ
  4. 融資審査を通過するためのポイント

美容室開業へ向けて具体的に進み始める重要な一歩となります。 これができれば開業までの道が大きく整うことになりますね。

さて、美容師として独立開業し、美容室オーナーになるまでに必要なこと、知っておきたいことをまとめたこの連載も今回で第6回です。
この第6回では「日本政策金融公庫から融資を受ける方法」について解説いたします。

前回、前々回と「開業資金・融資」についての解説を続けていますが、今回がその最終回です。 今回は美容室開業資金の融資を受けるのに最もおすすめな「日本政策金融公庫」(以下、単に「公庫」とも)について深掘りして解説いたします。

前回、前々回の記事を読んだ方はもちろん、「美容室の開業資金融資ってどこから受けるのがおすすめなの?」とか「公庫から融資を受けるにはどうしたらいい?」などの疑問をお持ちの方へ、わかりやすく解説していきます。

1. 美容室開業なら融資は日本政策金融公庫がおすすめ

前々回の記事で詳しく解説しましたが、美容室の開業融資を受けるなら「日本政策金融公庫」がおすすめです。政府の政策を反映した公庫なら個人への開業融資を積極的に行ってくれますし、無担保・低金利での融資を受けられるからです。

というより、実績のない状態で個人に対して「創業融資」をしてくれる金融機関はそう多くありません。金利や融資額なども踏まえて考えると、現実的なところ他にめぼしい選択肢はそう多くないのです。
美容室の創業には1000万円程度の資金が必要であり、自己資金だけで開業できる人はかなり稀です。ほとんどの場合、公庫による融資を受けることが必須項目と言って良いくらいです。

2. 日本政策金融公庫から融資を受けるメリット

公庫以外に融資元として地方銀行や信用金庫なども考えられますが、やはり国が100%出資して政策と連動した金融機関としての役割を果たす日本政策金融公庫よりも良い条件での融資をしてくれるところはほぼありません。 
公庫から融資を受けるメリットを解説してみましょう。

日本政策金融公庫から融資を受けるメリット

  • 創業時の融資が受けやすい
  • 民間企業よりも低金利の融資が受けられる
  • 保証人不要・無担保での融資が受けられる
  • 返済期間が長い
  • 創業時のアドバイスなども受けられる

創業時の融資が受けやすい

通常、個人事業主や中小企業の経営者はそもそも融資を受けにくいものです。 会社員と比較して収入が不安定だと判断されてしまい、融資のリスクが高いと思われてしまうからです。 

ただでさえそうだというのですから、ましてや「これから個人事業主になろう」「これから会社経営しよう」という創業時の融資を受けるのが難しいのは想像に難くないでしょう。

そこで助けとなるのが「日本政策金融公庫」というわけです。公庫は株式会社の形をとっていますが、国が100%出資をする会社であり、「株式会社日本政策金融公庫法」に基づいて運営されています。公庫は国の政策を実現するための金融機関としての役割を果たしており、経営方針の中で以下のようにうたっています。

国の政策に基づき、新たな事業の創出、事業の再生、事業承継、海外展開、農林水産業の新たな展開及び持続可能な社会の実現に向けた環境・エネルギー対策への支援など、政策金融に求められる各層の各種ニーズに適切に対応し、もって日本経済の成長・発展に貢献する。

日本政策金融公庫 基本理念及び経営方針

この方針からもわかる通り公庫は創業支援に力を入れているため、他の民間金融機関と違ってリスクの高い創業融資を積極的に行ってくれます。
実績がない状態での創業融資では大変頼りになる存在です。


民間企業よりも低金利の融資が受けられる

日本政策金融公庫で融資を受ける場合、通常は民間金融機関よりも低金利での融資を受けることができます。一般の金融機関では金利3%〜10%以上での融資となりますが、公庫なら金利2%台で済みます。

参考 国民生活事業(主要利率一覧表)日本政策金融公庫

もし500万円の融資を受けて10年で返済するとすると、金利が1%違うだけで支払い総額に50万円ほどの違いが生じます。5年返済だとしても20万円の違いです。結構大きいですよね。

また、公庫では金利以外に補償金などの余計なお金を取られたりもしませんので、条件面では他に比べてかなりお得な融資を受けることができるでしょう。

保証人不要・無担保での融資が受けられる

公庫のありがたいところとして、保証人なし・担保なしの融資も可能な制度が存在する点が挙げられます。 もちろん保証人や担保をつけることができれば融資審査が通りやすくなったり、より低金利で融資を受けられるなどのメリットもありますが、人によっては保証人や担保を用意できないこともありますのでこのような制度を利用できるのは非常にありがたいです。


返済期間が長く、途中変更も可能

公庫の特徴として、他の金融機関よりも長い返済期間を設定できることも挙げられます。 創業融資の場合、5〜10年の間で返済期間を選ぶことが可能です。

返済期間を長く設定すれば月々の返済が少額で済みますので、創業当初も経営がしやすくなります。万が一思ったように軌道に乗ってこない場合でも、最悪減額申請をして返済スケジュールを変更することも可能なので安心です。


創業時のアドバイスなども受けられる

さらに国民の創業を応援している公庫なら、創業時に相談できるコンサルティング機能を有しています。 経営方針でも以下のように述べられています。

イ お客さまの立場に立って親身に応対し、身近で頼りになる存在を目指す。

ロ 政策金融の役割を十分に理解し制度を適切に運用するとともに、

コンサルティング機能・能力の充実を図ることでサービスの質を向上し、資金と情報を活用することにより、

政策金融を必要とするさまざまなお客さまのニーズに迅速かつ的確に対応する。

日本政策金融公庫 基本理念及び経営方針

初めての開業ではわからないことがたくさんあると思いますので、公庫で受けられるアドバイスや公庫が提供してくれている創業資料は役に立つことでしょう。

3. 融資を受けるまでの流れ

では実際に公庫で融資を受けるまでにはどのようなステップを踏む必要があるのでしょうか? 具体的に見ていきましょう。

日本政策金融公庫で融資を受けるまでのステップ

  1. 店の運営計画を立てる
  2. 物件を仮押さえする
  3. 内装の見積もりや設備費の試算をする
  4. 申し込み書類を作成する
  5. 創業計画書を作成する
  6. 公庫にて面談をする
  7. 審査結果が出る
補足
日本政策金融公庫が提供している「創業の手引+(美容版)」は非常に参考になりますので、こちらにも目を通しておきましょう。
参考 創業の手引き+(美容版)日本政策金融公庫

①店の運営計画を立てる

まずはどのような店にしていくか計画を立てることがスタートです。 具体的にやることとしてはこの連載で見てきた通り、

  • 自己資金を用意する
  • 収支計画を立てる
  • 店のコンセプトや経営方針を定める

と言ったことです。 これらのことはこの先のステップを進めるにも創業計画書を書くにも必要なことですので、時間をかけてしっかり行いましょう。
特に、収支計画は創業計画書の中でも最も重要で、融資審査に大きな影響を与えます。 入念に下調べして、具体的かつ現実的な計画を立てておきましょう。


②物件を仮押さえする

続いてやるべきことは物件の仮押さえです。 なぜなら、融資の申し込みに店舗の物件の証明が必要だからです。 仮押さえを済ませて店舗物件を証明できる書類を手元に置いておきましょう。

物件選びについては今後の連載の中で詳しく解説していく予定です。


③内装の見積もりや設備費の試算をする

自分の収支計画やコンセプトを元にして内装や設備について予算を立て、それを踏まえて内装工事の見積もりや設備費などを試算しておきましょう。これらも創業計画書の中に創業時の必要経費として書き入れる必要があります。

セット面やシャンプー台の数などは売り上げの試算に直接影響を与える部分ですので、わかりやすくしておきましょう。 設備や内装も削れる部分は削り、必要性を説明できるようにしておく必要があります。


④申し込み書類を作成する

ここまでの準備ができたら必要書類の作成に取り掛かります。 申し込み書類は公庫の公式ホームページからダウンロードすることが可能です。 記入例を参考に間違いのないよう作成しましょう。

当たり前のことですが、間違いがなくて丁寧に記入することが大切です。 この書類は審査担当者がまず最初に目を通す書類ですので、ここで雑な印象を持たれてしまうのは防いでおきましょう。


⑤創業計画書を作成する

そして最も重要な「創業計画書」を作成します。 店のコンセプト、収支計画、必要な開業資金の試算と調達方法など、事前準備した内容を元に詳しく、わかりやすく、具体的に記載します。

詳しくは前回の記事で詳しく解説しております。


⑥その他必要な添付書類を揃える

その他、必要な添付書類を揃えておきます。以下のようなものがあります。

  • 本人確認書類(免許証など)のコピー
  • 印鑑証明書
  • 銀行通帳のコピー
  • ローン等がある場合、支払い明細書
  • 水道光熱費の支払い明細書
  • 確定申告書または源泉徴収票(直近2年分)
  • 美容師免許のコピー
  • 店舗物件の申し込み状況がわかる書類
  • 内装費用の見積書

公庫のホームページによれば、必要な提出書類は「借入申込書」と「創業計画書」のみとなっていますが、実際のところそれだけでは審査には通らないでしょう。

上記のような添付書類は創業計画書の記載内容を補足し、説得力を持たせるものです。 できる限りたくさん用意して信頼性を上げ、熱意を見せた方が審査に通りやすくなります。

できるだけ「説明の根拠となる書類」を揃えておき、詳しい説明ができるように準備しておきましょう。


⑦公庫にて面談をする

必要書類を提出後、指定日時に面談を行います。

面談時の服装は特に決まりはありません。 スーツでも良いですが、美容師という職業上スーツにこだわるよりもTPOをわきまえた自然な服装の方が印象が良いです。 
むしろ変に気張りすぎるのも良くありませんので、気にしすぎないようにしましょう。


⑧審査結果が出る

面談後2〜3週間ほどで結果が出ます。 電話連絡となることが多いので、出られなかったときはすぐにかけ直すようにしましょう。

4. 融資審査を通過するためのポイント

以上の流れで融資まで進んでいきます。 審査を無事に通過するには以下のポイントを押さえておきましょう。

日本政策金融公庫の審査を通過するためのポイント
  • 自己資金をコツコツ貯めて、通帳に残しておく
  • 他社の借入等がなく、経済状況に問題がない
  • 店舗経営に必要な知識・経験を有していると判断できるだけの経歴を持っている
  • 妥当かつ具体的な収支計画が立てられている
  • 家族等の理解・サポートが得られていることを示す

自己資金をコツコツ貯めて、通帳に残しておく

自己資金は必要額の1/3程度 は用意しておきたいところです(前々回参照)。そしてただ資金を用意しているだけでなく、その出処がハッキリしているとなお効果的です。

通帳にしっかり記録を残してコツコツと貯めてきたことがわかる場合、それを見せれば開業への熱意やその人の管理能力も証明できますし、家計に問題がないことなども見てわかります。
タンス貯金では何も証明することができず 損してしまいますので、コツコツと銀行口座にて貯めておくことをおすすめします。


他社の借入等がなく、経済状況に問題がない

他社の借入があったり、水道光熱費や税金の滞納があったりすると審査に大きなマイナスとなります。 もちろん住宅ローンなどは支払いに滞りがなければ問題ありませんが、消費者金融やクレジットカードのリボ払いなどがあると審査に影響を与えます。

なお、これらを隠したところで調べれば簡単にわかってしまいますので、絶対にやめましょう。


店舗経営に必要な知識・経験を有していると判断できるだけの経歴を持っている

美容師免許を有していることはもちろん、実際に技術者として集客ができるだけの技術、また経営者として管理していくための能力を有していることを経歴から判断できると融資担当者にとっても安心感があります。

美容室での勤務経験、店長経験などの他、コンクール受賞歴などがあればなお良いでしょう。


妥当かつ具体的な収支計画が立てられている経歴を持っている

収支計画がきちんと立てられていることは非常に重要です。 ここの妥当性をきちんと説明できれば融資してもきちんと返済していけることを納得してもらえますので、審査通過に大きくつながるでしょう。

売り上げ金額と経費を現実的に予想 し、それを理解してもらえるだけの根拠を準備しておきましょう。


家族等の理解・サポートが得られていることを示す

家族などの協力者のサポートが受けられている事業は成功しやすい特徴がありますので、それを証明できると審査が有利に進みます。 例えば、妻(旦那)の銀行通帳を添付したり、保証人になってもらうなどの方法があります。配偶者が協力的で、理解してくれていることがわかれば、万一事業が失敗しても返済が期待できるので融資しやすくなるのです。

特に、夫婦揃って美容師だと審査に非常に有利です。


以上、今回は「日本政策金融公庫から融資を受ける方法」について解説いたしました。

まとめ
  • 創業融資なら「日本政策金融公庫」からの融資がメリットが大きい
  • 融資してもらうにはしっかりと準備して計画性と管理能力を示すことが重要
  • 創業計画書の記載内容の根拠と具体性を添付書類で示す

以上の通り、美容室開業へ向けてできる限り早い段階からコツコツと準備していくことが印象の良さにつながります。 いつからでも遅いということはありませんので、気づいた時点から小さなことからコツコツと、真面目に努力を重ねていきましょう。

次回は「会計の準備」について解説いたします。