【Vol.14】出店エリアの選定(1)|統計資料から地域の特性を読み解く

美容室経営成功の鍵を握る、不動産選定

第12回でお伝えした通り、サロン独立開業が成功するかどうかは、70%以上不動産選定で決まる、とも言われています。前回はそんな不動産選定において重要な「商圏設定」について解説いたしました。

今回からはそれを踏まえて具体的に「出店エリアの選定」について、解説していきます。

(参考)
[美容室開業における不動産選定の重要性-vol.12]
[サロンの規模と商圏 | 店舗イメージに応じた商圏設定-vol.13]

解説前に、連載第12回において紹介した [不動産選定で押さえるべき15の重要ポイント] をおさらいしておきましょう。

[不動産選びの重要ポイント]

(1) 出店エリアの選定
① 都内、都下、県(首都圏)
② 最寄り駅の乗降客数
③ 所属市区町村の人口
④ 昼間人口/夜間人口
⑤ 近隣の学校分布と生徒数 (大学・女子大)
⑥ マンション分布
⑦ 近隣施設の状況
⑧ ターゲット層の生活導線
⑨ 近隣の美容室の件数

(2) 候補となる物件の選定
① 坪数
② 予算
③ 最寄駅から徒歩圏内かどうか
④ 階層(1F,2F or 地下)
⑤ 通りに面しているか否か
⑥ 近隣に似たコンセプトの競合店があるか

今回はこの中の「(1) 出店エリアの選定」で紹介した9つのポイントについて深掘りしていきます。

「理想の店舗イメージを実現するためにはどのエリアで出店するべきか?」

そんな疑問を解決し、戦略的に出店エリアを決めるためのリサーチ方法について解説いたします。

(※ なお、この記事は小規模サロンの開業を考える人にとっても参考になる内容ですが、主には「サロンを大きく成長・拡大させていきたい」と考える方へと向けて執筆しております。 あらかじめご了承ください。)

1. 統計資料を読み解く

戦略的に出店エリアを定めていくために大事なことを最初にまとめておきましょう。 それは、次の4点です。

[具体的な出店エリア選定の進め方]

  1. 統計資料を読み解き正確なデータを得る
  2. 正確なデータをもとに、統計から地域の特性を把握する
  3. 地域特性をもとに 自分のイメージする理想の店舗に最適な出店エリアの候補を選び出す
  4. 候補に上がったエリアについて、エリアについてのさらに細かい情報を調べる

もちろん(4)の通り統計資料以外によるリサーチも行いますし、実際にフィールドワークをしてリアルな情報収集をしたり、自分の分析に問題がなかったか確認することも大切です。

しかしまずは、統計資料から正確なデータを得て、それを分析することが効果的な出店エリア設定のスタートになるのです。

2. 出店する都道府県を考える

正確な資料で分析を始める前に、自分が理想とする店舗イメージから出店する都道府県くらいは決めてしまうべきでしょう。関東地方(+山梨県)を例として考えるのであれば、選択肢は次の4択となるでしょう。

① 都内で勝負する
② 都下に出店する
③ 首都圏都市部に出店する
④ 地方に出店する

① 都内で勝負する

東京23区は言わずと知れた美容室の激戦区です。

厚生労働省による[平成29年度衛生行政報告例の概況 統計表]によれば、全国には24万7000店ほどの美容室が存在するようですが、その約10分の1にあたる約2万3000店が東京に集中しています。

(引用元 : [平成29年度衛生行政報告例の概況 統計表])

[平成30年度版]も更新されていたので確認してみましたが、全国で約25万1000店東京都が約2万3500店と割合的にはほぼ変化ないようです。

これらの値は23区内だけでなく都下も含んだ数値ではありますが、これだけでも東京都内に出店するということの意味合い見えてきます。

東京の水準は近県の埼玉・神奈川・千葉と比較して2倍茨城や栃木などと比較すれば4倍に当たる数値です。23区に限定すれば、それこそかなりの違いになることは明白でしょう。

それだけの店舗数が存在できているという事実はつまり、それだけのビジネスチャンスが存在するということです。ただし、競合店も多くレベルが高いわけですので、それ相応の準備をして望まなければ厳しいことも言わずもがなです。

デメリットを挙げるならば、

  • 固定費(家賃)が非常に高い
  • 人件費も地方より高くつく
  • 競合店の数が多く、質も高い
  • 固定客を地方より掴みにくい

などがあります。

周到に戦略を練って店舗経営を行い、それと同時に確かな技術とサービスを提供することができれば事業拡大にはもってこいの市場だということができるでしょう。

固定費・人件費が高くつくという特徴があるため、小規模店で回転率や単価を高める戦略がベーシックです。 この場合、軌道に乗ったら2店舗以降を近隣に展開していくのが王道です。

難易度は上がりますが、ビジネスチャンスは大いにあるので王道とは逆に大規模店で大きなシェアを狙う戦略をするにも適していると言えます。

大規模店で軌道に乗せることができたのであれば、2店舗目以降は都内のエリアが異なる地域やさいたま市、横浜市といった首都圏の中心都市、あるいは仙台市や大阪市などの大都市を狙って展開していくのが良いでしょう。

② 都下に出店する

同じ東京都内でも23区内とそれ以外(都下)では状況は大きく異なります。 先ほどの資料を確認すると、八王子市の美容室数はおよそ700店です。 このデータから見ると、都下への出店はイメージとして、前橋市や川越市など、地方の中心都市レベルの規模感だと言えます。

ただし、来店するターゲット層には違いがありますし、23区内からの集客も見込める立地ですので、この辺りが都下を選択して出店するメリットとなるでしょう。

例えば、ネット集客に力を入れた高単価ながら実力の確かな小〜中規模店などを出店するにはもってこいの立地だと考えられます。 

地域で信頼されるお店を目指すとともに、髪質改善やトリートメニューに力を入れたり、パーマ技術に特化したりなど、何かしらの技術を高めてそれをブログやInstagramなどを使って発信し、都内からのアクセスを生かした集客がポイントとなるでしょう。

③ 首都圏都市部に出店する

それでは、さいたま市や横浜市、千葉市への出店はどうでしょうか? 同様のデータから見ると、美容室数は都下よりもはるかに多く、どちらかと言えば23区内に近い水準となります。特に横浜市はほぼ23区と同程度の水準と考えて良いでしょう。

これらのような大都市は人口も多く十分なビジネスチャンスが見込めますが、それだけにリスクも伴います。 例えば23区内で成功を修めてからの事業拡大で最初に狙いたい都市と考えることも可能でしょう。

④ 地方に出店する

関東地方でいえば茨城・栃木・群馬・山梨や、神奈川・埼玉・千葉の都内から遠い地域になります。
地方で開業をする特徴は次のようになります。

  • 人口が都内とはかなり差があり、大規模なビジネスチャンスは生まれにいくい
  • 開業費用を安く抑えられる
  • 諸経費・固定費が安いため利益率が高く、売上を伸ばさなくても経営できる
  • 競合が少ない
  • 人間関係を大事にして地域密着型のサロンを作りやすい
  • 電車よりも車中心のライフスタイル

大型店舗を作って集約するというよりは、小規模〜中規模のサロンが成功しやすい特徴があります。
街の個人店として地域密着型でやりたい方は固定費や初期費用が安く済む地方で出店した方が良いのは間違いありません。

逆に地方でもビジネスとして売り上げを上げたい場合、人口が多めのエリアを選んで駅近に地域No.1を目指した中規模サロンを開業するのが良いでしょう。

3. 駅についてのリサーチをする

都内などで出店するのであれば、駅についてのリサーチが非常に重要です。 地方なら車によるアクセスが中心になりますが、都内なら電車が交通の中心ですので、最寄駅をどこにするのかでビジネスチャンスが大きく変わります。

“最寄り駅の乗降客数”が多いほどチャンスが大きくなる

まず調査したいのは 駅の乗降客数、つまりはどれだけ利用されているかです。当然ながら乗降客数が多い地域ほど人の流れが多く、それだけビジネスチャンスが生まれることになります。

JR東日本が発表する2019年度の乗降客数TOP20の駅が次の通りです。

(引用元 : [JR東日本 各駅の乗車人員 2019年度])

定期利用者の割合も重要

乗降客数だけでなく、定期利用者の割合も注目すべきポイントです。定期利用者が多いということは、その駅付近に会社や学校がある人が多い、またはベッドタウンとなっているということです。

そのような特性をうまく捉え、ターゲット層の導線を捉えて出店したり、広告宣伝を打ったりすることで多くのターゲット層に認知してもらうことができます。

統計からどのような特徴の駅・エリアなのか読み解くことが重要です。

駅に関する統計の調査方法

乗降客数や定期利用者の割合を調べるには、次のサイトなどを利用すると良いでしょう。

《JR東日本》

《都営地下鉄》

《東京メトロ》

各社が発表する公式な統計情報を確認することができます。 
このような正確性の高いデータを用いて、自分の目的に合わせた分析することが大切です。
近日、2013年に統計データと実際のフィールドワークにて行った東京都の駅調査の結果をまとめた記事を公開いたします。

(公開後、こちらにリンクを設置します。)

4. エリアの人口をリサーチする 

駅だけでなく、エリアの人口に関する統計も出店エリアのリサーチでは重要です。

市区町村の人口

駅の乗降客数と同様、市区町村の人口が多ければ単純にビジネスチャンスがたくさんあると捉えることができます。
市区町村の人口は前回記事でみた商圏や店舗の規模に大きく関わります。詳しくは前回記事を参考にしてみてください。

[サロンの規模と商圏 | 店舗イメージに応じた商圏設定-vol.13]

昼間人口と夜間人口

市区町村の人口をただリサーチするだけではなく、昼間人口/夜間人口までリサーチしてエリアの特性を読み解くことが重要です。

夜間人口はそのエリアに在住する人口のこと、つまりは一般的にいう人口そのものです。

それに対して、常住人口に他の地域から通勤してくる人口(流入人口)を足し、さらに他の地域へ通勤する人口(流出人口)を引いたものが昼間人口となります。つまり、

「昼間人口 = 常住人口 + 流入人口 – 流出人口」

です。ちなみに、流入人口や流出人口に買い物客や観光客は含まれず、通勤・通学による継続的な流入出のみを考えます。
昼間人口と夜間人口の比率を比較することで、エリアの特徴が見えてきます。

① 昼間人口>夜間人口

昼間人口の方が夜間人口より多いエリアは、ビジネス街などに多く見られます。通勤者が多く集まり、人口の流入が多くなるからです。

例えば、東京都千代田区は国の中心部として有名ですが、昼間人口は夜間人口の14.6倍にものぼります。

(引用元 : [平成27年国勢調査による 東京都の昼間人口 | 東京都人口統計課])

ちなみに、千代田区にはあまり美容室は多くありません。 人の動きは盛んで日中は多くの人で賑わうエリアですが、そのほとんどがビジネスを目的として流入してきている人であるため、顧客としてターゲットとはしにくいことが想像できます。

② 昼間人口<夜間人口

逆に昼間人口よりも夜間人口が多いエリアは、ベッドタウンに多く見られます。 東京近郊で言えば、埼玉や千葉の東京寄りの地域がこのような傾向があります。

このようなエリアでは、通勤・通学での流出が流入を上回り、平日日中は人が少なくなります。 しかしベッドタウンとして栄えているエリアであれば人口自体は多く、夜間や休日は人が多くなります。

近隣エリアに住んでいる人たちをターゲットに地域密着型の店舗経営をしたり、普段仕事でお疲れの方に休日の癒しとなるようなサロンを考えている方には合っているでしょう。

③ 昼間人口=夜間人口

昼間人口と夜間人口に差がないバランスの取れたエリアです。 流入・流出のどちらも少ないというパターンもあれば、流出は多いが流入も多いというパターンもあります。

流出入のどちらも少ないパターンは、地方でよく見られます。東京近郊で言えば、例えば茨城県や群馬県は昼間人口と夜間人口の差があまりありません。

人の動きがあまりないエリアと言えますので、ビジネスチャンスはあまり大きくないと言えます。 しかし地域との結びつきを強く持った店舗運営をイメージしている方にはもってこいでしょう。

逆に、流入出ともに多いエリアは 人の動きが盛んで、かつ常住者も多いバランスの取れたエリアと捉えることができます。 さまざまな人をターゲットにしたい大規模店の出店ならこのようなエリアが最適と考えられるでしょう。

人口に関する統計の調査方法

人口についての統計なら、国で行っている国勢調査などの統計が最も信頼できるでしょう。以下に参考になる総務省の統計データへのリンクをまとめておきます。

ただデータを眺めるのではなく、自分の店舗イメージをもとに 自分にとって理想的な出店エリアはどのようなエリアなのかをはっきりさせ、目的を持ったリサーチ・分析を行いましょう。

ここまでのまとめ : 出店エリアの選定(1)

今回は「出店エリアの選定」の前編ということで、について解説いたしました。出店エリア選定について、ここまでの内容をおさらいしておきましょう。

出店エリア選定の具体的な進め方は次の通りです。

[出店エリア選定のやり方]

  1. 統計資料を読み解き正確なデータを得る
  2. 正確なデータをもとに、統計から地域の特性を把握する
  3. 地域特性をもとに 自分のイメージする理想の店舗に最適な出店エリアの候補を選び出す
  4. 候補に上がったエリアについて、エリアについてのさらに細かい情報を調べる

これを前提にして、

[出店エリア選定の調査ポイント]

① 都内、都下、県(首都圏)
② 最寄り駅の乗降客数
③ 所属市区町村の人口
④ 昼間人口/夜間人口
⑤ 近隣の学校分布と生徒数 (大学・女子大)
⑥ マンション分布
⑦ 近隣施設の状況
⑧ ターゲット層の生活導線
⑨ 近隣の美容室の件数

の9つのポイントをリサーチしていきます。今回は統計資料をもとに調査する①〜④の内容を解説しました。

次回は⑤以降を解説していきます。